「優しいおとな」 桐野夏生著 中央公論新社刊
「優しい大人はめったにいない。優しくない大人からはすぐにげろ。優しいか、優しくないか、どっちつかずか。でも、一番僕たちを苦しめるのは、どっちつかずのやつらだ。しかも、そいつらは数が多い。」
近未来の渋谷でホームレス暮らしの少年イオンの物語。児セン(児童養護施設のようなもの)から逃げ出して数年たち現在15歳。貧しい食事のせいで、体は小さい。食べるのは厳しいが、児センには絶対戻りたくない。字は読めないが、知恵を絞って一人で生き抜いてきた。
そして、イオンには、もっと過酷な事件が起きる。
桐野夏生さんの作品は現実の事件を思い起こさせるものが多い。この作品も、派遣切り・非正規雇用・若者のホームレス・児童虐待というような昨今の社会の負の部分を映している。フィクションではあるが近未来ともいえない。
しかし、悲惨な話ではあるが魂の救済があり、少年の冒険物語でもあるので、心に沁みることはあっても理不尽な怒りを覚えたり、社会正義云々は思わない。現実の社会問題を扱っているように見せかけるからくりを、読者は楽しめるのだと思う。
新聞連載ということで、表紙・扉・中扉のイラストが美しい。深刻なテーマなのに印象が明るい(白っぽい明るさ)なのはイラストのせいかもしれない。
「優しいおとな」のことば、ドキッとする。どっちつかず・・・自分を振り返ってみると・・どっちつかずが一番安全だったと思う。
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